ショートストーリ―

夜のスーパー

土曜の夜。今日もオケの練習で遅くなってしまった。あいにく夕食はまだ取っていない。

最寄り駅に着いて、アナログなのに狂いの無いホームの時計を見るとPM10。
普段は料理をするが、料理をするぐらいなら早く寝たい。
日常的には利用しないが値引きお惣菜を狩りに、
夜のスーパーへ繰り出す。

10時以降の夜のスーパーは良い。
客が少なくて、何より店員が穏やかだ。
閉店に向けたクロージング作業はあるのだろうが焦りを感じない。
夜のシフトは精鋭揃いなのだ。ほぼ社員しかいなく、変に急ぎすぎずかつ着実にレジ打ちをこなす。

客層も大量買いをする主婦はおらず、ほとんど一人暮らしの民だ。
一人当たりの購入量も少なく、レジの回転も速い。
何もかもがゆっくりと流れている。
店員も客も分かっているのだ。小川が上流から下流に流れるように、淀みない人とモノの流れを。そこに感情はない。

しかし夜のスーパーに入ったときに、いつもの都会の喧騒から一線を画すようなあの清らかな流れが、今は石油のように重く何かを引きずるように流れている。

私はお総菜コーナーへ直行する。そしてすべてを悟った。

お惣菜が無い。

~つづく~

ABOUT ME
げんげん
音楽(主にクラシック)に関連させて趣味~仕事関連まで大人の生活に関わることを発信しています。 4歳からピアノを、10歳からヴァイオリンをはじめました。 大学時代はオーケストラに所属していました。 現在はサラリーマンをしながら、主にアマチュアオーケストラでヴァイオリンを続けています。 趣味はバスケットボール。中小企業診断士の取得に向け勉強中。